「バベル」日本語会話も字幕
俳優の菊地凛子(りんこ)さんが耳の不自由な高校生を演じる映画「バベル」。
4月28日公開された話題作は、全上映館で日本語のせりふにも字幕がつくようになった。4万人分の署名を集めた ろう者 らの声に、配給会社が応えた。
字幕 実現までにどんな経緯があったのか。(井上恵一郎)
(4月29日付朝日新聞 社会面「もっと知りたい」より)
◆これまで
映画「バベル」はモロッコ、メキシコ、米国、日本が舞台。外国語の会話と手話には 字幕 がつくが、日本語になかったため、試写を見たろう者らが「全編 字幕 つきに」と署名を集めて要望。
配給会社は3月、全国の上映館で全編 字幕 つきにすると発表した。菊地凛子さんが米アカデミー賞助演女優賞候補にノミネートされ、話題になった。
◆4万人署名、配給元動かす
「日本語なのに 字幕 がある」。公開初日にバベルを見に来た男子大学生は驚いた。「でも、慣れると違和感を感じなかった」
字幕 がつくきっかけは3ヶ月前の試写会。物語の鍵となる場面で日本語会話の字幕 が消え、招待されていた ろう者 たちが混乱した。
千葉県の美容師、高橋さん(26)は筋を追えなくなり、「何を言っているの?」と、上映中なのに思わず周囲にたずねたという。
楽しみにしていた。菊地凛子さんが出る日本の場面には約400人のろう者がエキストラで協力。その一人だったからだ。
「字幕 があるものと思い込んでいた」
神奈川県の ろう学校 教諭で 難聴者 の物井さん(39)も「私たちの存在が見えていないのかなと悲しかった」
教え子たちが出演していた。
聞こえる人と同じように映画やテレビを楽しみたい・・・。 耳の不自由な人たち は、小さい頃からそんな思いを何度も抱かされてきた。
東京都の会社員、吉田さん(39)は、家族の中で一人だけ 耳が不自由 だった。
ドリフターズをみて皆が大笑いしている時、僕にも教えてとせがんだ。
名作アニメ「フランダースの犬」は、後で本を読み、結末で犬が死んだわけを知った。
都内の会社員、石原さん(37)は弟にCMの間に粗筋を教えてもらいながら、苦労してアニメなどを見てきた。
そんな中、字幕 がつく洋画は楽しめる娯楽だ。ただ、最近は日本が絡んだ話題作が目立つ。都内の会社員、河内さん(41)は、「ラストサムライ」を映画館まで行って見ずに帰ったことがある。
受付で、トム・クルーズと共演する日本人俳優の会話に 字幕 がないと聞いたからだった。
そんな積み重ねが、署名活動の背景にある。
配給元のギャガ・コミュニケーションズによると、その試写会は主にマスコミ向けで、公開時に日本語会話の 字幕 つきも出す予定だったという。
ただ、「やるとしても5スクリーン程度」だったのを、4万人の署名を受け、全館ですべて 字幕 つきにすることを決めた。
日本語会話にも 字幕 をつけようという運動は、邦画を対象に長年続いてきた。
始まりはボランティアの手作りだった。名古屋市のサークル「まごのて」は1984年から取り組む。
宮崎駿監督の「もののけ姫」では、映画を録音してテープを起こした後、20回以上劇場に通い、字幕 を出すタイミングを調べて作った。
好評で、後に配給会社自らも字幕版を制作した。1990年代から、字幕 つきを出す映画会社が増え始めた。
松竹は山田洋次監督作品を中心に手がけ、1作品5本前後を作ってきた。ただ、全作品ではなく、内容などで決めるという。
2006年は2作品で 字幕 版を作っている。しかし、上映は主要都市の一部で、時間も期間も限られるのが実情だ。
「バベルが、全国どこでも、聞こえる人も 聞こえない人 も一緒に楽しめるようになったことに意義がある」と手話通訳士の南さん(45)。
厚生労働省の調査(2001年)では、聴覚障害者 は約35万人。
だが、高齢で耳が遠い人なども含めれば 耳の不自由な人 は1千万人近いとみる聴覚障害者 団体の関係者もいる。
ギャガの副社長は「観客が増えるなら、字幕 をつけたかいがある」と期待を込める。
公開初日。字幕がない試写会も見た耳の不自由な男性(24)は、手話で感想を語ってくれた。
「人と人とのきずなを描いた映画だったんですね」
(4月29日付朝日新聞 社会面「もっと知りたい」より)
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