「ローラ、もしもの時に男性に頼らなくても生きていけるように仕事を持っておきなさい」
母は、娘の私に繰り返しこう話した。夫と離婚し、クリーニング店の店員をしながら苦労して私を育てた母を見て私は、男性に頼らない、女性の経済的自立こそ幸福の条件と信じていた。
だから私も結婚する時、夫婦別姓を主張し、旧姓のまま仕事も続けた。 夫の姓を名乗るのは男性への降伏とすら考えていた。
《米国では1960年代からフェミニズムの影響で、男性からの経済的自立で女性は自由を得るという生き方が吹聴され、夫婦別姓や事実婚を推奨する運動が盛んだった≫
「なぜ夫婦別姓にしないといけないのか」とたずねた夫に私は「夫婦でも独立した人間でいたい」と答えた。
夫は納得いかない顔をしたが認めてはくれた。 長女の出産後、直ちに保育所に預けた仕事に復帰できた。
しかし、育児と仕事で忙しく、次第に夫婦の会話は少なくなった。 ある日、同僚から郊外の一軒家の購入を勧められ、夫に相談すると、意外な言葉が返ってきた。
「君は、僕と一生を共にする気がないから結婚しても旧姓のままだし、離婚しても暮らせるよう仕事を続けているんだろう。 夫婦共有の財産など後で困らないか。 やめよう」
返す言葉がなかった。 別姓選択が、夫と一緒に見られるのが嫌だったのは間違いないからだ。
《米国価値研究所の調査では、事実婚は単に一緒に住むことを選んだカップルで、生涯を誓い合い、将来を委ねあう歓迎ではない≫
そのため、正式な婚姻夫婦に比べ、自分たちの収入を共同で使うことが少ない傾向にある。 夫は次第に外での飲食が増え、休日も趣味のバイクに夢中になっていく。
ある日、浪費を注意すると、夫はこう答えた。
「夫婦でも独立した人間でありたいと言ったのはローラ、君だよ。 自分で稼いだ収入を自分のために使って何が問題なのか。 君も収入を得ている。お互い自立するんだろう」
《米国では、女性が社会的自立を目指し仕事をするようになった半面、「妻と子供を扶養するのは男性の責任だ」という意識が急速に薄れた。
その結果、1960年にわずか5%だった婚姻外出産率(未婚の母の出産)が、2004年では34%に。
父親、母親とだんらんを味わえない子供が40年で7倍に増加した。
この結婚はもう駄目かもしれないと思った。気がかりは子供のことだ。 離婚は子供にどのような影響を与えるのか、相談したらカウンセラーから、びっくりするような話ばかり聞かされた。
● アメリカ価値研究所の調査結果による離婚と事実婚についての主な代償
・離婚や未婚、再婚した家族で育った娘が未婚の母になる率は3倍に増加する。
・離婚した女性とその子供の30%が貧困に陥っている。
・親が離婚した子供は両親が揃った家庭で育った子供と比べて、社会人になった時、失業率や経済的な困窮が増加している。
・母子、又は父子家庭で育った子供は、結婚している実の両親の家庭で育った子供に比べて2倍の確率で30代初めまでに実刑を受けている
(アメリカ価値研究所編「独身者は損をしている」明成社刊から)
夫婦別姓、女性の社会進出、子育ての外注化という流れの中で米国では男性が妻と子供を扶養する責任を感じなくなっていった。
離婚や未婚の母が増加し、家族という生活の基礎的な基盤を失って苦しむ子供たちが急増した。
ペンシルベニア州立大学アマト教授は「安定的な結婚を1980年代の水準まで上昇させれば、停学になる子供を50万人、非行、暴力行為に走る子供を20万人、心理療法を受ける子供を25万人、喫煙する子供を25万人、自殺志向の子供を8万人、自殺未遂の子供を2万8千人、それぞれ減らせる」と警鐘を鳴らした。
「家族のきずな」よりも「個人の意向」を優先する社会。 これが何をもたらしたか。 米国の女性たちは既に教訓を得つつある。
「(米国女性は)過去25年間で初めて女性の就労率が下降し、女性の86%が『仕事よりも家庭が大事だ』と思っている。 (2002年3月12日付『USA TODAY』)
日本は米国の過ちを繰り返すのだろうか……。
(3月4日付け産経新聞「未来予想図 選択的夫婦別姓を問う 中」より)
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