(3月3日付産経新聞「未来予想図 選択的夫婦別性を問う 上」より)
田中京子は結婚を目前に控え、憂鬱だった。
農家の1人娘として何不自由なく育ち、都内でOLになった京子は、同じ地方出身者の同僚、鈴木一郎と出会い、2年越しの交際を経て晴れて秋に結婚の運びとなった。
京子は育ててくれた両親を安心させたいとばかりに、国会で成立したばかりの選択的夫婦別性の利用を思いたち一郎もいったんは快諾した。
ところが話が具体的になるにつれて2人は、生まれてくる子供の姓をどちらにするかを巡ってもめるようになったのだ。
「家名を残すには、子供の姓は田中にしたいと、私の両親が願っているの」
「僕の両親は、そもそも別性には反対だったんだ。 親子別性はおかしいだろ。 僕だけが鈴木で、君と子供たちは皆田中? 子供から、『どうしてお父さんだけ姓が違うの』と言われる僕の気持ちを考えてくれよ」
将来生まれる子供の姓をどちらにするか。 実は選択的夫婦別性では結婚前に決めなければならない。 子供の姓が鈴木なら結局、田中の家は絶えてしまう。
親戚を交えた協議を何度も重ねたが両家は譲らず、険悪で重苦しい空気が流れた。 「あなたの選んだ人だから」と言っていた両親も今や「あんな人」呼ばわりだ。
「こんなはずではなかった」 京子も祝福に包まれた結婚生活に正直、自信が持てずにいる。
《選択的夫婦別性法案の最大の問題点。 それは、夫婦別性が親子別性だということだ。 何人子供がいても子供の姓は皆どちらか一つに統一される。 一旦決めてしまえば、後で後悔しても同姓に戻すことは許されない≫
佐藤りえは中学2年生。 両親が別性を選択した。両親はりえに「『姓』が違うだけで、家族に変わりはない」という。
しかし、母親がこう強調すればするほど、りえにはある違和感が芽生えてくる。
母の言葉をどんなに自分に言い聞かせてみても、自分の「生き方」を正当化する母親が、私に押しつけているという疑義がぬぐえないのだ。
そうした思いを母に打ち明けたことはない。 母は私の胸の内を知ってて「家族に変わりはない」と言い聞かせるのだろうか。
不快感とともにやり場のない寂しさが募る。 正直つらい。 表札の母親の名前は「山本ひろ子」
表札を見た同級生が口々に「離婚したのに同居している」「家庭内別居だ」こうからかわれ続けている。
説明も面倒で黙っているが、表札を見ると「どうして自分の家は他と違うのか」 こんな思いがこみ上げ、母の言う「別性でも絆は変わらない」が独り善がりに思えてならない。 娘には憂鬱で仕方がないのだ。
自分も死にたいと、大山妙子は思った。
40数年連れ添った夫が先日、急逝した。夫と1人息子の幸太郎の3人で社員100人を抱える中小企業を切り盛りし、息子は立派な後継者に。
安心して会社を任せるつもりだった。 ところが、通夜の日、10代の子供を連れた女性が現れた。 「この子は夫の子供だ」という。
しかも「この子には息子と同額の遺産を相続する権利がある」と相続を迫ってきたのだ。
別性の改正民法には「非嫡出子差別の禁止」として不倫で生まれた子供も非嫡出子として財産を平等に与えるよう定めている。
ショックだった。 夫の子供なら、多少の遺産を渡すのは止むを得ないかもしれない。
だが、息子は「10数年、父と共に汗を流し、会社をここまでしにしたのに。 会社はどうなるんだ」と強く反発する。
息子と同額の遺産を渡すには会社の株を渡して経営陣に参加させるか、我が家を売って現金を準備するしかないからだ。
しかし我が家は銀行の担保下にあり、売り払うのも難しい。 あの女性は「恨むなら、法律と国を恨みなさい」と言った。 妙子は、血も涙もない法律を恨むしかなかった。
(記事中の人物は実在しません)
日本社会は結婚すると、夫婦が同姓となり支え合いながら生きていく。 この大きな原則が脅かされている。
婚外子差別や家族の多様性などさまざまな不都合や不満を背景にした「選択的夫婦別性制度」が導入されつつあるのだ。
推進者は制度のメリットを強調し、一部の希望者のみに認めるだけで、社会への影響は少ないと説明する。 が果たしてそうか。
同姓家族が混在する社会が私たちに何をもたらすか。
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