貴方の「婚活」では結婚できませんよ。 頑張るほど目は肥え、理想は高くなり、現実は遠のく
日本の家族を研究している中央大教授の山田昌弘さん(51)
2007年に生まれた「婚活」という言葉は、未曾有の結婚難時代の到来を宣言し、たちまち日本社会に浸透した。
今日も結婚仲介業の広告に、雑誌の特集に、婚活の文字が躍る。 ところが、婚活提唱者の一人である山田昌弘さんはそんな隆盛ぶりに、違和感を覚えているというのだ。
(聞き手 鈴木繁)
問い: 「婚活」、すごい勢いで広がりましたね。
「ただ、意図したものとは違う形で流通してしまいました。 『社会学の商業利用はけしからん』なんていう、筋違いの批難まで出てくる始末で。 結婚仲介業に登録して理想の人が現れるのを待つというのは、私たちの想定した婚活とは、まるでかけ離れているんですが」
問い: そもそもなぜ、婚活が必要なんですか
「構造的に結婚しにくい時代になっているからです。 バブル崩壊後、自由化と規制緩和が進み、日本社会は劇的に変わりました。 若年層の非正規雇用が増え、若い夫の収入だけでは家計を支えるのが難しくなっている。 ところが、親にパラサイトして暮らしてきた日本の未婚者は、取りあえず寂しくないし金の心配がないから、昔ながらの意識を変えない。 厳しい現実に触れようとせず、恋人はおろか、異性の友人さえいない人が多すぎる。 だから、私と白河桃子さんは 婚活 を提唱したんです。 外へ出よう。 動こうという運動です。
問い: 当人は、格別結婚したいとは思っていないのでは。
「未婚者の9割は、結婚したいと思っています。親も高齢になってきますし、仕事はきつい。 生活の安定と将来の見通しが欲しい。一人じゃ生きていくこと自体が不安」

問い: バブル前の結婚事情は、違っていた?
「かつては、未婚者が入れば、周りが結婚に向けておぜんだてしてくれた。 親類や近所に世話好きの紹介者がいたし、お見合いもあった。 企業も独身社員を結婚へと誘導する社内システムを持っていました。 ところが、1980年代に入ると、結婚は就職同様、自由化の波にさらされます。 自己責任で好きな人を見つけてするものになっていった。 いつ、誰と結婚してもいいということになると、理想と現実が離れて、かえって結婚しにくいというパラドックスが起こります」
問い: バブル期には「3高」志向が結婚を送らせる、と言われました。 高学歴、高収入、高身長
「この時期は、女性の社会進出が進み、男性への期待値が上がったことによる晩婚化。 今は違う。 期待値を下げても、結婚は容易じゃありません。 工夫と努力が必要。 何より、結婚に対する意識を変えることが前提なんです。」
問い: では、今時の婚活実践者は、何がいけないのでしょうか。
「もともとコミュニケーション能力が高くて積極性のある人は、ブームの前から動いていたようです。 問題なのは、早く活動を始めないと、いい男性が売り切れてしまうと焦る女性たちが『婚活市場』で、目立ってしまっていることです」
問い: それなりに真っ当な婚活のような気がしますが。
「彼女たちは専業主婦志向なんですよ。 『婚活時代』の中で『男は仕事、女は家庭』という従来型の結婚観では、もう相手が見つからないですよ、と私たちが警鐘を鳴らした当の人たち」
問い: さすがに、少数派になっていると思いますが。
「いえ、最近、また増えているんです。 若い未婚者層では特に。 内閣府が実施した世論調査では『夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである』という考えに対する賛成率が、02年には未婚者で30.5%だったのに07年は37.3%に上がっています。 既婚・未婚合わせた数値でも30代の賛成が32.9%から35.0%に、20代になると、33.2%から40.2%へと跳ね上がっている。 40代、50代より高い」
問い: 彼女たちのターゲットとなるのは?
「安定した職に就いている、高収入の男性です。 私のインタビュー調査でも、キャリア女性であろうとフリーター女性であろうと、いつか高収入男性に見初められて結婚することを想定しています」
問い: 高収入って、どれくらいのレベルなんでしょう。
「02年の調査では、東京の未婚女性の40%が年収600万円以上の男性を結婚相手に望んでいます。 ところが、25歳から34歳の未婚男性で、年収600万円以上稼いでいる人は3.5%しかいない」
問い: そんなに少ない?
「ここには既婚者は入っていませんから。 結婚対象になりそうな高収入男性は、目端の利くライバルに既にかっさらわれているのです」
問い: ほとんど黄金が掘り起こされてしまった金脈に、群がっている……。
「経済学者ほどには人間に合理的行動を期待してはいないつもりだったのですが、女性の理想の結婚に対する執着は、予想を超えていました。 あるフリーター女性は『希望の結婚相手が現れると信じています。 私、くじに当たったことがないから、結婚相手には当たる気がする』と真顔で言うんです。 MBA資格を持ちながら仕事を探している30代半ばの女性は『すぐにでも結婚したい』と訴えましたが、条件は『年収1千万円。周りの人はみんなそうだったもん』。 だけどもう、結婚しちゃってます」
問い: 男性の方の婚活はどうですか。
「男性の意識はこの10年で大きく変わった。 専業主婦を望む声はぐっと減りました。 自分の収入だけでは豊かな生活を築く自信がなくなったことが大きいでしょうけど。 ただし、受身の男性は、ますます自分から動かなくなっている。 最初から現実の中で動くのをあきらめ、2次元や虚構の世界に行きがちです。 幻の安らぎを求めて月何十万円ものお金をつぎ込んだ耳かき膝枕殺人事件は、象徴的だった」
問い: 女性だけが頑張っちゃうのが不思議ですねえ。
「男性が結婚相手に求める基準は多様です。 なので、どんな体形の女性でも、目指す相手の好みに合致する可能性がゼロではない。 安定した生活への願望も男性より強い、ついつい可能性を追ってしまうのです。 しかも、頑張れば頑張るほど、目は肥え、理想は高くなり、現実の結婚は遠のく」
問い: これからは男性が主夫になる手もありそうですが。
「主夫になっている男性を調べてみたこともあります。 とにかくみんな見た目がカッコいい。 コミュニケーション能力も高いし、考え方も柔軟。 普通の男性は自助努力で社会的な能力を身につけ、定職について収入を上げていく方が、むしろ簡単かもしれません。 この当たり事情も就職と似ている」
問い: ただ、就職は義務ですけれど、結婚は義務じゃないでしょ。
「フロイトは愛する事と働く事は、大人の基本的なあり方だと言っています。 私も同感。 結婚の意義は自分を大切に思い、必要としてくれる人を得る手段、いや保証書みたいのものです。 この保証部分が恋愛と違う。 現代では、結婚は恋愛よりも格段に難しくなっているのです」
取材を終えて:
既婚者として結婚のリアルな日常は身にしみているつもり。 「現実を見よ。 しかして動け」は正しい。
けれど、現実が冷厳であればあるほど、結婚だけは甘く、かぐわしいものであってもらいたいという独身者たちの夢の切実さも分かるのだ。
現実と夢は、男と女のようですね。追いかけあいながら、追いつくことがない。
(10月17日付け朝日新聞より)
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