◆高学歴女性 イランに新風 「まず家庭」から社会へ
イランの大学生は女子の数が男子を上回る状況が続く。 1979年のイスラム革命を機に女子の教育水準が飛躍的に向上したことが背景にある。
高学歴化の進行は「女性はまず家庭」という伝統的な価値観や女性の人生観に変化を生み出し、保守派からは増加抑制を求める声も出る。
「30歳で 結婚 できればいいかな」 テヘラン大学4年のマニジェさん(23)はあっけらかんと話した。
4人姉妹の末っ子。姉3人もみな大卒だ。 医学部受験に失敗し、文系に志望を変えて2年後に合格した。
技師の父親も大卒だが、「母は18歳で 結婚 して主婦になり、こんな自由はなかったそうです」
男子学生も交えてこっそり開くホームパーティが楽しみだ。
ピザを食べながらダンスを楽しんだりする。多い時は数十人の場合も。 出会いの場になっているという。
「自由な時間」を得て学生生活はを満喫しているようだ。 国立大学の一斉入試で女子の合格率が男子と肩を並べたのは10年前。
ここ数年は女子が6割を超えている。
イラン出身のサイード・ペイパンディ・パリ第8大学助教授(社会学)によれば、修士や博士課程を含めると、大学に在籍する学生の約54%を占め、学費が無料の国立大学に限るとさらに増える。
医学専攻は3人に2人、芸術系専攻だと4人に3人だという。
テヘランの別の大学に通う理系の男子学生(23)はちょっと肩身の狭い思いをしている。 学科在籍者180人のうち男子は20人に満たない。
2人兄弟の次男で、高校まで別学だから女子とまともに話したことがなかった。
「授業中に見とれてしまって……」 教師に黒板の前に呼ばれ、前列に陣取る優秀な女子の前で質問攻めにあうこともある。
◆後押す政府は想定外
革命後、スカーフ着用などイスラムの教えに基づく規制が強まり、教育も高校まで男女別が厳格になった。
政府は女子教育の向上に取り組み、女性教師養成に力を注いだ。
「男性教師の目に娘をさらせない」と学校にやるのを控えていた保守的な家庭が積極的に通わせるようになった。
農村部の小学校で80年代の初頭に3割あまりだった女子の比率が、90年代には5割近くに達した。
革命前は5割に満たなかった識字率も最近では約9割に上昇。 女性の識字率が向上したためとされる。
90年代には、革命前は大学在籍者の約3割だった女子が4割に達した。
学校教育を受ける機会底上げされ、多くの学部で入学規制が緩和されるなど、女子の進学意欲がかきたてられたことや、職業や結婚相手の選択肢が広がると考える若い女性が増えるといった事情が指摘される。
「地方の女子も小学校に入学させ、イスラムのイデオロギーを教え込むというのが政権の思惑だった」と早稲田大学の桜井教授(イラン研究)は指摘する。
もっとも「女性の大学進学がここまで進むことは政権も想定していなかったはずだ」と見る。 だが就職は厳しい。
テヘラン大学で日本語を教える清水さん(40)は「今年の日本語専攻卒業生14人はすべて女子だったが、就職できたのはコンピューター関連会社に決まった1人だけ」と話す。
一方、同性の方が相談しやすい医師や弁護士など専門職では女性の進出が進む。 今では弁護士の3割が女性という。
2003年には人権活動家の弁護士シリン・エバディ氏がイスラム女性初のノーベル平和賞を受賞した。
女性弁護士セィーゲ・ホジャパトナーさん(54)は「革命前にテヘラン大学の法学部に在籍した時は200人中女性は6人だった」と振り返る。
特に改革・開放を掲げたハタミ前大統領時代に離婚問題など女性の悩みに応じる女性弁護士が増えたという。
◆保守派から反発の声
女性学生の「優位」に、数年前から男子を一定以上の割合で入学させるよう求める声が保守派を中心に出ている。
報道によると、最近、女子学生の増加是正を促す国会関係機関の報告書が政府に提出された。
人権や平和への貢献を讃える2007年度オロフ・パルメ章に選ばれたパルピンアルダランさんは「女性排除の意図がある」と批判する。
桜井教授は「第一の役割は家庭で、仕事は家庭を犠牲にしない範囲でというのが、現体制が許容する女性像。
高学歴化がこれ以上進むと、男性主導の社会が脅かせられかねないと、当局や保守派を考えているのだろう」と見る。
ペイバンディ助教授は「政府には家庭を守る伝統的な女性像を植え付けようとする姿勢がうかがえるが、女性は早婚を避ける意識が強く、出生率低下も著しいハタミ大統領を生んだ要因の一つだった女性の不満が募ると、社会を変革する原動力となる可能性もある」話す。
◆イラン女性の現状
1) 服 髪の毛や体の線が見えない服着用が義務。全身を覆うのが理想とされる
2) 座席
バスは前が男性席、後ろが女性席。 地下鉄は女性専用車両がある。 乗り合いタクシーは男女一緒でも問題ない。
3) 離婚
男性から申し出る場合には理由は不要だが女性が言い出す場合は正当な利用が必要とされる。
4) スポーツ 国際大会出場は頭髪をスカーフで隠してできる競技に限る
5) 歌手
女性歌手の独唱は禁止。 コンサートも原則禁止だが、聴衆がすべて女性の場合に限り認められることがある
6)選挙権 男女同権
◆数字で見る変化
1)平均 初婚年齢 1966年18.4才 1986年19.8歳 2006年23.2歳
2)15~45歳の間に産む子供の数 86年4.8人 06年1.8人
3)出生数 91年159万人 06年125万人
4)人口増加率 86年 3.9% 06年 1.6%
(5月23日付け朝日新聞「世界発2008」より)
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