いい人、いつか見つかるさ
◇「僕の趣味はサッカーです。海外のドラマもよく見ます」
今年の体育の日、尾崎和則さん(34)は、東京・目白のガラス張りのレストランで開かれた
お見合いパーティ に参加し、そう自己紹介した。
ブルーのシャツに黄色のネクタイで臨んだ。 ルールに従い、六つのテーブルすべてを20分刻みで回る。
会費8千円の食事を口にする間もなく、2時間があっという間に過ぎた。 これは、と見込んだ相手の電話番号を聞き出すのは、この後のフリートークにかかっている。
和則さんが「いいな」と思う女性の周りには、すでに男性が群がっている。
「割り込んだら悪いなあ」。 でももうすぐお開きだ。 気を取り直し、女性に歩み寄った。
「休みの日はどんなことをしてます?僕は(米人気テレビドラマ)『24』とかが好きなんです」
「そのドラマは知らないんですが、尾崎さんはどんな俳優が好きなんですか?」
年下で明るい印象。 その女性と言葉を交わして8分間。 「今度、僕と食事でも」と名刺を差し出した。
彼女は、携帯電話の番号を教えてくれた。 手ごたえを感じた。
同じ頃、母の園枝さん(57)は東京都内の自宅で、前日に参加した「親の 見合い」のことを考えていた。
和則さんのパーティと同じ 結婚相談所 が開いた子どもの 縁結び の場。
「ぜひ、娘さんと」 和則さんの写真を手に、頭を下げて回った。
息子は、7年勤めた石材メーカーを「男手は自分だけだから」と辞めて、家業の米穀店を継いでくれた。
早朝から夜まで30キロの米袋を黙々と運ぶ。 「よく働く息子さんですね」と得意先の評判も上々だ。
3年前に他界したおばあちゃんの話し相手を、園枝さんの代わりにいつも務めてくれた。 家族思いだと思う。
園枝さんは、お嫁さんが窮屈な思いをしないよう同居するつもりはない。 お嫁さんが外で働くことにも、賛成するつもりでいる。
なのに 縁結びの神様 はなかなか息子に微笑んでくれない。
26歳から見合いは10回以上。 園枝さんは、親の 見合い にも足を運んだ。 「付き合ってみれば、息子の良さはきっとわかってもらえるのに」
親の お見合い で、ささいな手違いから参加者名簿に「会社員」と書かれたことがある。
それまで「自営業」となっていた時には人気のなかった身上書が、飛ぶようにさばけた。 園枝さんは悩んだ。
「見合い 相手は、会社員という肩書を選ぶのかしら」 和則さんも会社員だったころには、気の合う女性と、遊びに出かけていた。
2人きりで飲んでいたある夜、突然手を握られた。 思わず「また、ふざけちゃって」とちゃかした。 女性は手を離した。
その女性とはどうしても友だち以上の感情が芽生えなかった。
結婚 したい、でもできない。 そんな若者が増えていると、親の見合いを主催した結婚相談所の代表(63)は感じている。
自分は20回目の 見合い で夫に出会えたけれど、今はそんな数の 縁談 が来る時代ではない。 おまけに、今の一人暮らしは、満ち足りてしまっている。
「妥協してまで結婚しなくなったのです」 和則さんも毎日の暮らしを、単調だが楽しいと感じている。
休日はフットサルで汗を流し、部屋でくつろぎながら米ドラマの最新巻を見るのは最高だ。
そんな時間にも、親から独立し、好きな相手と暮らす「結婚」のことを思わなくはない。 妻と子どもが、いつも笑っているような家庭を築きたい。
「結婚 したくない、ということは、僕にはありえない。できれば、2,3年のうちに・・・・・」
しかし、ここ数年は実を結ばない見合いの繰り返しだ。 パーティに和則さんは4回顔を出した。 銀座でのデートにこぎつけたこともある。
食事をしながら、相手の女性はスポーツや趣味の話を楽しそうにしてくれた。 なのに翌日、電話で交際を断られた。
「女性をひきつける何かが僕には足りないのか」 「いつの日か、自分に 結婚願望がなくなってしまうのか」
答えはまだ、見つからない。 そんな姿を見守りながら、園枝さんと夫の岩男さん(63)は内心、気が気でない。
「あいつは、結婚 したくないとは一度も言ってないよな」 「いつかは、よね。お百度参りでもしようかしらね」
良縁 はきっと来る 息子を支え続けよう。
「あの子が 結婚 したらきっと分かってくれる。子を思う親の気持ちが」
(石原剛文)
(10月28日付け朝日新聞「家族」より)
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