女性にとって、恋愛、結婚、出産は大きな関心事だ
東京都内の30歳代の会社員F子さんは、10歳代後半の時、
献血でHIV(エイズウィルス)陽性がわかった。
当時はまだ、今のような効果的な治療法がなかった。F子さんは「どうせ、あと10年ぐらいしか生きられない」と自暴自棄になり、病院にも行かなくなってしまった。
20歳代になり、家族の説得で久し振りに病院を訪れたF子さんは、看護師に「彼氏いるの?」と聞かれ、仰天した。
生きることさえ不確かだったF子さんにとって、恋愛、結婚、出産という選択肢はありえなかったからだ。
看護師は「今は薬でウイルス量を抑えて長生きできるようになり、妊娠・出産 もできる。彼氏がいる女性も少なくないのよ」と教えてくれた。
「結婚 前に陽性が判明した女性の中には、医師に尋ねる前に、自分の中で 妊娠・出産 をあきらめてしまっている人もいます」と、国立国際医療センターエイズ治療・研究センターの看護師、大森さんは話す。
しかし、女性が陽性で男性が陰性の場合、人工授精などで、
男性にウイルスを感染させずに 妊娠 する方法もある。
母子感染のリスクも、ゼロではないが、かなり低くなった。
「ですから、陽性女性に対しては、将来 妊娠・出産 という選択肢もあることを、医療従事者の方から積極的に情報提供する必要があります」
抗HIV薬の中には、妊娠中に服用すると胎児に影響するものもある。薬の変更は最小限にとどめた方がよいため、将来 妊娠・出産 を希望する場合は、最初からその薬を避けるなどの配慮も必要だ。
一方、独身の陽性女性にとって、妊娠・出産 以前に、信頼できるパートナーをいかに見つけ、自分が陽性であることを、彼にいつ、どのように伝えるかということも、重要な関心事だ。
F子さんが陽性女性の集まりに出かけると、独身女性たちの話題は、やはりその点に集中する。
「彼の反応も怖いし、驚かせて嫌な思いをさせてしまうかもしれない。それに本当のことがきちんとつたわるのか・・・」。
しかし実際には、そうした心配は、取り越し苦労であることが多いという。F子さんの場合も、思い切って打ち明けた時の彼の第一声は「なんだ全然問題ないじゃない」だった。
他の女性の話しを聞いても、「考えさせてくれ」などと言われた人はおらず、案外すんなり受け入れれられている。
「物事の本質を見極められる、広い心と視野を持った男性を、私たちは自然に選んでいるのかもしれませんね」とF子さんは明るく笑う。
HIVには感染しない方がいい。でも、HIVと共に生きることになっても、恋愛し、子どもを産み育てる可能性があることを知って欲しい。(森谷直子)
(5月19日付読売新聞 くらし面 連載コラム
「HIVとともに産み育てる⑤」より
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