明るい雰囲気に包まれるフランスの家庭。
フランス の出生率は先進国での有数の高さを誇る。
(5月9日付読売新聞 文化面より)
◆300日問題が話題を呼んでいる。
これは民法の規定により「離婚後300日以内に生まれた子は、実の父ではなくとも母親の前夫の戸籍 に入れなくてはならない」という問題で、このため母親が子どもの 出生届け を出さないケースもあるという。
これは私の住んでいる フランス では考えられないことだ。
フランス には 戸籍 に似た家族手帳というものもあるが国籍とは関係ないし、出生届けも、国籍や父の認知と関係なく受け付けられる。
出生を記録するということは、家族を超えた社会的な認知であり、生まれた子供が生存に必要な諸権利を獲得するということだからだ。
フランス は、母親が望むなら、養子縁組を前提として父母の名を入れずに 出生届 が出せる匿名出産を認めている国でもある。
父親はもちろん、母親から独立しても、子供は社会的に存在する権利があるのだ。
◆婚外子は2人に一人
そんな フランス では、久し振りに合計特殊出生率が2.0を超えてヨーロッパのトップになった。
妊娠・出産・育児 に対する助成金の充実、子供のいる女性の就労をサポートするシステムの発達など、少子化歯止めの政策が功を奏したと言われている。
しかしそれが決めてとは言えない。以前は離婚後300日間女性は再婚できなかったが2004年に禁止が撤廃された。
今やそもそも生まれてくる子供の二人に一人が婚外子であり、庶子と嫡出子の区別も撤廃されている。
必ずしも シングルマザー が多いわけではなく、事実婚 のカップルが離婚を繰り返していることの方が多い。
父親を異にする複数の子供を産む女性も普通にいる。
女性が「戸籍というブァーチャルな家の中で家長の子を生む」という感覚がないから、こうした婚外出産に抵抗が少ない。
◆ 「家」必要な日本
日本 の女性は、母となる時、ヴァーチャルな家の枠組みを社会的に必要とする。若い世代に
「できちゃった婚」が多いのは、妊娠はともかく出産は「妻の役割だとされるからだろう。
妻でなく女として妊娠し得るのは第一子であり、第二子以降は「家」の中の「産む装置」が機能する。日本 では「母」と「女」が両立しにくい。
「母が不倫したり「夫」以外の子を妊娠することへの世間の風当たりは強い。
しかも、「妻=母」として産んだ子供の「良し悪し」で「装置」の性能が問われたりする。
子供の生存権と教育が社会によって保証されるのでなく母親の肩にかかるのだから、子供の数が減るのも当然だ。
日本 での夫の浮気相手というと「水商売の女性」を連想することが多い。 フランス ではずばり「友人の奥さん」だ。
家族ぐるみの交際は盛んだが、そこには男と女の競争原理が働く。男にとって相手が人妻だから母親だからという自制は働かないし、逆に、自分の妻が常に女として見られている危機も管理しなくてはならない。
男が女を「女」として認識しないところには子供は生まれない。
そういう競争原理の中に生きる フランス の男女の緊張や努力を「ご苦労なことだ」とみるか「うらやましい」と見るかは人によりけりだろう。
けれども、子供の出生を可能にする男女の惹かれ合いドラマを、ヴァーチャルな家の「生産装置」としての妻や母という図式から遠ざける限り、母親も子供も深いところで「いのちの勢い」をそがれることになる。
それだけではない。
戦後の経済復興の中で、冷戦後の市場経済市場主義の中で、日本 は少しずつ 妊娠・出産・育児 という生命の営みを、出生率とか財政支出の多寡、年金システムの破綻とか偏差値などを通して語るようになってきた。
このへんでそろそろ、数値ばかり見るのをいったんやめてみたら、人と人との関係性の中から本当の意味での生命が生まれ、輝き出すかもしれない。
(5月9日付読売新聞 文化面より)
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