既婚女性と未婚女性 からの続きです。先にお読みください。

◆久し振りに会った暁美は主婦というより、セレブな奥さまという華やかさを漂わせていた。
優しいダンナ様と可愛い娘に囲まれて、さぞかし幸せな毎日を送っているのだろう、とたやすく想像できる。
独身だった頃、暁美とよく遊んだ。恋のこと、仕事のこと、将来のことを、繰り返し語り合ったものだ。お互いに正直に胸のうちを語り、励まされたり励ましたり、時には、本気で喧嘩したこともある。
けれども昨日、あの席に、あの頃の私たちはいなかった。いたのは、あの頃の私たちが知らない、私たちだった。
それは暁美が結婚していて、私が独身だから?そも幸せそうな暁美に、私が嫉妬したから?
「仕事、楽しい?」と聞かれた時、思わず強がりを言っていた。
「うん、すごく楽しい」。
正直を言えば、月に一度は辞めたいと、真剣に落ち込むことがあるのに。
「最近、いいエステティックサロンを見つけたの。今度、暁美に紹介しようか」
そう言ったのは私の意地。
「海外旅行はもう飽きちゃって、最近は温泉巡りばかりしてるの。でも、国内の方が費用がかかるって変よね」
これは私の虚栄心。
でなければ、暁美の守ってくれる夫にも、可愛い娘の存在にも、ペチャンコにされてしまいそうな気がしたから。
同窓会の通知を受け取った時、久し振りに暁美と会えると楽しみにしていた。暁美が結婚してから、なかなか時間が合わなくて、いつの間にか疎遠になってしまった。
だからこそ、会えなかった間にあった、あのこともこのことも聞いて欲しかった。そして、たくさん聞かせて欲しかった。
なのに私ったら、バカみたい・・・。
コーヒーを飲み干してから、少し迷い、やがて遥子はポケットから携帯電話を取り出した。
(12月7日付読売新聞広告連続小説
「午前10時に竹内まりや」唯川恵・著 第4回より)
◆暁美がハーブティを飲み終えた時、携帯電話が鳴り出した。
ディスプレーには遥子の名前が出ている。ちょうど遥子のことを考えていたので、思わずどきりとした。
「もしもし」
「私、遥子」
「うん、昨日は楽しかったね。久し振りで会えて、いろいろお喋りできて」
「そのことなんだけで」
「どうかした?」
「あのね・・・謝ろうと思って」
「謝るって、何を?」
「私、仕事が楽しいなんて言ったけど、本当は強がっただけ。暁美があまり幸せそうだったから、つい、見栄を張っちゃったの。本当はいろいろあるの、ストレスもいっぱいたまっているし」
「遥子・・・」
「その他にもたくさんいやなことを言ったわ。エステだとか温泉だとか、格好つけたことばかり・・・」
暁美は思わず遥子の言葉を遮った。
「待って、謝るのは私の方よ」
「え?」
「私ね、必死に幸せそうに振る舞ったの。でないと、仕事で輝いている遥子に勝ち目はないような気がしたから。だから、すい、子供が可愛いなんて強調したの。馬鹿ね、何でそんなことしたのかしら。さっきっから、それを思い出して悔やんでたところ」
「暁美・・・」
「自分で決めた道なのに、別の道を選んだ人を見ると、不安になってしまう。私、本当にこれでよかったのかなって」
「そうね、厄介ね、人生って」
「ねえ、今度、ゆっくり会わない?」
「いいわね、私も会いたい」
「その時は見栄も強がりもなしで」
電話を切って、ふたりは窓に目を向けた。今、暁美の見ている空も、遥子の見ている空も、一つに繋がっている。
あの頃、二人が見ていた空のように。
【終】
(12月8日付最終回)
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